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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)7911号 判決

原告(反訴被告)

平山美代

被告(反訴原告)

栄光交通株式会社

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し六八万七二六〇円及びこれに対する昭和六〇年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は本訴・反訴を通じてこれを五分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当時者の求める裁判

一  本訴請求関係

1  原告(反訴被告、以下「原告」という。)

(一) 被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、原告に対し九九万八六九〇円及びこれに対する昭和六〇年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする、との判決及び仮執行の宣言。

2  被告

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴請求関係

1  被告

(一) 原告は、被告に対し五五万七七一〇円及びこれに対する昭和六〇年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする、との判決及び仮執行の宣言。

2  原告

(一) 被告の反訴請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求関係

1  請求原因

(一) 昭和六〇年五月三日午前一時ごろ、埼玉県越谷市大間野町二丁目二二二の三先交差点(以下「本件交差点」という。)において、原告運転の普通乗用自動車(大宮五九ひ七七〇六、以下「原告車」という。)が信号の矢印に従い右折中、折から対向方面から直進してきた訴外加藤秀夫(以下、「加藤」という。)運転の普通乗用自動車(足立五五か四四五〇、以下「被告車」という。)に衝突された。

(二) 本件事故は、加藤運転の被告車が、信号が既に赤に変つていたにもかかわらず、漫然と時速約五〇キロメートルの速度で本件交差点を直進しようとしたため発生したものであるから、被告車を運転していた加藤に過失があることは明らかである。

加藤は、被告の従業員であり本件事故は被告の事業の執行中に発生したものであるから、被告は、加藤の使用者として民法第七一五条により原告に加えた損害を賠償する責任がある。

(三) 本件事故により原告が被つた損害は、次のとおりである。

(1) 原告の治療費 七二六〇円

(2) 原告車の引揚料 二万円

(3) 原告車の修理代 六五万三九三〇円

(4) 原告車の評価損 一六万七五〇〇円

原告車は、原告が昭和六〇年三月一九二万一〇〇〇円で購入した新車(マツダ・ルーチエ)で、新規登録二か月にて本件事故にあつたものであるから、その評価損は一六万七五〇〇円を下ることはない。

(5) 弁護士費用 一五万円

被告は、加藤秀夫が黄色信号にて本件交差点に進入したものであるとして、被告の責任及び過失割合を争うので、原告は、原告訴訟代理人に委任して本訴を提起したものである。

(四) よつて、原告は、被告に対し本件事故による損害賠償として合計九九万八六九〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年七月一六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  答弁

(一) 請求原因(一)のうち、原告主張の日時、場所で原告車と被告車が衝突したことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同(二)のうち、加藤運転の被告車が本件交差点を時速約五〇キロメートルで直進しようとしたことは認めるが、その余は否認する。

(三) 同(三)は不知。

(四) 同(四)は争う。

二  反訴請求関係

1  請求原因

(一) 原告主張の日時、場所で原告車と被告車が衝突したことは原告主張のとおりである。

(二) 本件事故は、加藤が、被告車を運転し、本件交差点を青色信号により直進しようとしたところ、原告が赤色信号を無視して本件交差点を右折しようとしたことにより発生したものであるから、原告は、民法第七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(三) 本件事故により被告が被った損害は、次のとおりである。

(1) 被告車の修理代 五〇万一七一〇円

被告車は被告の所有であるところ、本件事故によりフロントバンバー、フロントフエンダー等を損壊された。

(2) 休車損害 五万六〇〇〇円

昭和六〇年五月三日から同月九日までの七日間被告車を修理のため稼働させなかつたことにより合計五万六〇〇〇円(一日八〇〇〇円)相当の損害を被った。

(四) よつて、被告は、原告に対し本件事故による損害賠償として合計五五万七七一〇円及びこれに対する反訴条送達の日の翌日である昭和六〇年九月一一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  答弁

(一) 請求原因(一)は認める。

(二) 同(二)は否認する。

(三) 同(三)は争う。

(四) 同(四)は争う。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  本訴請求関係

1  原告主張の日時、場所において原告車と被告車が衝突するという本件交通事故が発生したことは当事者間に争いがない。

2  そこで、本件事故の態様について判断する。

加藤運転の被告車が本件交差点を時速約五〇キロメートルで直進しようとしたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いない甲第七号証、証人加藤秀夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証の各記載に証人松田茂、同加藤秀夫の各証言及び原告本人尋問の結果を総合し、右当事者間に争いない事実に鑑みると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、越谷市方面から草加市方面に通じる車道総幅員約二〇メートル、片側二車線のアスフアルト舗装された平坦な直線道路(国道四号線)とこれに蒲生に通じる幅員約六メートル、片側一車線のアスフアルト舗装された道路が交差する変形交差点(通称大間野交差点)内であり、右交差点は、信号機により交通整理が行われている交差点である。

(二)  加藤は、被告車を運転し、国道四号線を越谷市方面から草加市方面に向つて時速約六〇キロメートルで進行して本件交差点に差しかかつたのであるが、交差点手前で進行方向の信号が赤色表示に変り、被告車の右側車線を同一方向に先行していた松田茂運転の自動車が交差点手前で停止しようとしていたにもかかわらず、そのまま直進しようとして時速約五〇キロメートルのまま本件交差点に進入しようとしたところ、本件交差点直前で反対車線から本件交差点を右折しようとして進行してくる原告車を認め、急制動の措置をとつたが及ばず、被告車前部を原告車前部に衝突させた。

(三)  他方、原告は、原告車を運転し、国道四号線を草加市方面から越谷市方面に向つて進行して本件交差点手前約二〇〇メートルの地点に差しかかつたのであるが、その際進行方向の信号が青色表示であつたので減速して進行していたところ、交差点手前四ないし五メートルの地点で直進のための信号が赤色に変わり右折の矢印表示が出るとともに、対向車線を進行してきた松田茂運転の自動車が交差点手前に停止したので、交差点手前で停止することなく右折を開始し本件交差点に進入したところ、突然被告車が松田茂の運転する自動車の横側から本件交差点に進入してきたのを発見したので、急制動の措置をとつたが及ばず、本件交差点で被告車と衝突した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人加藤秀夫の証言部分(殊に黄色信号で本件交差点に進入した旨の証言部分)は、前掲証人松田茂の証言及び原告本人の供述に照らして軽々に措信し難く、他に右認定を覆えしあるいは左右するに足りる証拠はない。

3  進んで、被告の損害賠償責任について判断する。

前記2に認定した事実によれば、加藤は、本件交差点に進入するにあたり、信号機の表示にしたがい、安全な速度で被告車を走行すべき注意義務があるのにこれを怠り、信号が赤色表示であるにもかかわらず時速約五〇キロメートルで本件交差点に進入した過失があるというべきであり、証人加藤秀夫の証言と弁論の全趣旨によれば、加藤は、被告のタクシー運送事業の執行中に本件事故を起こしたことが認められ、これに反する証拠はないから、被告は、民法第七一五条により原告に加えた損害を賠償すべき責任を負うものといわざるをえない。

4  そこで、原告の被つた損害について検討する。

(一)  治療費 七二六〇円

成立に争いない甲第五号証の記載と原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により頭部を打撲し疼痛を覚えたため、草加市内の二宮病院で検査などを受け七二六〇円を支出したことが認められる。

(二)  原告車の引揚料 二万円

成立に争いない甲第二号証の記載と原告本人尋問の結果によれば、本件事故により原告車が破壊され走行不能となつたため浅川自動車に依頼して原告車を本件事故現場から自宅まで運んでもらい、その費用として二万円を支出したことが認められる。

(三)  原告車の修理代 六〇万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一、二と原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により破損された原告車を株式会社関東マツダに依頼して修理し、その費用として六〇万円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  原告車の評価損

原告は、本件交通事故により破損された原告車を修理しても新車に近い車であつたから、一六万七五〇〇円の評価損を被つたことになると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(五)  弁護士費用 六万円

本件事案の内容、心理の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故との間に相当因果関係のある弁護士費用は六万円が相当である。

5  そうすると、原告の本訴請求は、被告に対し本件事故による損害賠償として、六八万七二六〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は理由がなく、失当である。

二  本訴請求関係

1  原告主張の日時、場所において原告車と被告車が衝突するという交通事故が発生したことは当事者間に争いないところ、前記一の2において認定した本件事故の態様を前提とすると、原告が本件交差点の赤色表示を無視して原告車を運転して本件交差点を右折したものということはできないことはいうまでもない。

2  そうだとすれば、被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、失当である。

三  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は前記一に認定判断した限度において理由があるからこれを認容するが、その余は理由がないからこれを棄却することとし、また、被告の反訴請求はすべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第二九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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